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毎日新聞 朝刊(岡山版) 22面
岡山県エッセイスト・クラブ リレーエッセイ 駅(2) 「二人席」 2010年10月2日(土)掲載
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毎日新聞 リレーエッセイ 駅
「二人席」
2泊3日のスケジュールで東京へ出張した。
水曜日から金曜日にかけて東京に滞在、とどこおりなくすべての予定を済ませ、
金曜日の夕方、東京駅へ向かい、急いで駅弁とお茶を買った。予約していた
JR新幹線のぞみの二人がけの窓側の席に座って、やれやれ、間に合ってよかった、と安堵(あんど)した。
実は、のぞみの座席は大柄な私には少々窮屈で、これから3時間半、東京から岡山まで、隣に誰も
座らなければよいのに、と思った。しかし、思惑は外れた。
少し経って、スーツ姿の中年の男性が一人、隣の通路側の席に座ってきた。一見してサラリーマン風、
出張鞄(かばん)を持って、手には、私と同じように、駅弁と缶ビールを抱えている。ちらりとこちらを見て、
でも無言のまま、どさっと席に座った。何だか横柄な態度の人だなと思ったら、もう、いけない。話しかける
きっかけをなくしてしまった。
二人席に並んで座る二人、車両が東京駅を出発すると同時に、私は、幕の内弁当を開いて食べ始めた。
すると、その男性も缶ビールのプルトップをシュパッと開けて、飲み始め、弁当も食べ始めるではないか。なんと、
彼も私と同じ幕の内弁当だった。
この事態には参った。当然、二人とも、東京駅出発を合図に弁当を食べ始めることは容易に予想できたのに。
二人とも、おかずを食べ、ご飯を食べ、ほぼ同じスピードで弁当をたいらげていく。シャキシャキという、きんぴらごぼう
をかむ歯の音と、グビグビ、ごくんとお茶やビールを飲む、のどの音だけが、あたりに響く。
他の座席にはいっぱい空席があるというのに、たまたま、ここだけ二人席が埋まっていて、その狭い二人席に並んで
座った二人が、互いに無言のまま黙々とただ弁当を食べている。あいさつもせず、会話も交わさず。
そして、同じように食べ終えて、同じように弁当がらをごそごそと片付けて、また無言のまま、隣同士に座っている。
新幹線は何事もなく、西へ進む。結局、岡山までずっと一緒だった。
世の中には、電車で隣の席の人には一切声をかけないという主義の人もいるだろう。彼がそうだったのだろうか。
でも、私は違う。一言、「こんばんは」でもいい。あいさつはしたかった。
私にとっては、あの日の駅弁の食事ほど索漠としてわびしいものはなかった。
出張の疲れが倍になったような気がした。
久本 恵子